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住友館クリエイターズボイス Vol.11 落合正夫(MONTAGE)

住友館クリエイターズボイス Vol.11 落合正夫(MONTAGE)

こんにちは、住友館です。
この連載「住友館クリエイターズボイス」では、展示や建築、演出に関わったクリエイティブスタッフたちの“声”を、少しずつ紹介していきます。

万博やパビリオンにかける想い、乗り越えた苦難、ゆずれないこだわりなど、たくさんの物語が詰まっています。

今回の語り手は、森の中の様々な体験やパフォーミングシアターなどUNKNOWN FORESTの総合演出をつとめた落合正夫さん(モンタージュ)です。

<プロフィール>
CGデザイナー、VFXディレクターを経て、演出家として活動。ドバイ万博日本館、ミラノデザインウィーク、国際芸術祭「あいち」など、国内外のプロジェクトに参加し映像演出や空間演出を手掛ける。
https://montage.co.jp/members/ochiai-masao/

住友館に関わることになったキッカケは?

ドバイ万博日本館で演出として参加したことをきっかけに、総合プロデューサーである内藤さんから、弊社プロデューサー大田と共にお話をいただきました。

普段、我々演出チームはプロジェクトの後半から参加することも多いです。それ故に、既に演出や体験の方針が固まってしまって、意図したい演出に変更できない壁にぶつかったり、折り重なってしまった様々なハードルを取り除く必要に迫られたり…こういった作業に多くのリソースを割く苦労なども経験してきました。

一方で、この住友館のプロジェクトは、立ち上げの計画段階から参画し「こちらの意図した体験を生み出すことができる!」と、つくり手としては武者震いをするような感覚になったことを覚えています。

チーム全員の熱意と信頼で挑んだ「時間との戦い」

住友館には森の中のコンテンツやパフォーミングシアターなど数多くの演出があります。

その中で最も大きな課題は、パビリオン内の数多くのコンテンツを仕上げつつ、開催まで100日を切ったタイミングから万博会場の現場に入り、およそ60分間の一貫したUNKNOWN FORESTの体験へ組み上げていく作業が、果たして間に合うのかという「時間との戦い」でした。

住友館の演出には、造形、映像、照明、音響、来場者が手にするランタン、ミストや送風といった操演、さらにはダンサーやその特異な衣装まで、多様な要素が複雑に絡み合っています。

これらを統合し、一つの体験として成立させるために、まず着手したのは、制作に関わるすべてのメンバーが「完成形を具体的にイメージできる設計図」づくりです。

3D空間上に映像・音響・光・風・ミストなどを動的に組み込んだアニメーション形式のシミュレーション映像(プリビジュアライゼーション)、サウンドとライティングを連動させたシミュレーションの構築など、複数の手法を用いた設計図を基にしながら演出設計を進めました。


これらを基に対話を重ね、視覚化された各所の課題を解決し、事前検証の段階においても実践的・高度なテストを繰り返す事が可能となりました。

とはいえ、実際の現場でしか見えてこないことも多くあります。

森の中では映像・音響・照明・風・ランタンなどの様々な要素を連動させ、微調整を重ねました。さらに来場者の多様な動きを予測しながらシミュレーションを繰り返し、ランタンひとつにしても、その挙動まで丁寧に検証し、細部にわたって調整を積み上げていきました。
そして、パフォーミングシアター。映像、音、光とダンサーの振り付けが密接に関わるため、最もシビアな工程でした。現場では、コレオグラファー小㞍健太さんによる振り付けと、それに応えるダンサーたちの身体表現、調整に調整を重ねて、コンマ数秒単位の緻密なブラッシュアップしていく。時間がいくらあっても足りないほどでした。

これらの困難とも言える状況を乗り越え続け、いまこのように体験をお届けできているのは、豊富な経験をもったチームメンバーと積み重ねてきた対話の数々、現場における柔軟な対応力や迅速な判断力、そして何より「最後まで良い体験を届けたい」という、住友館に関わる全員の熱意と信頼関係があったからこそだと強く感じています。

日々の工夫や対応によって成熟する「生きた体験」

来館された方々の感想の中には、演出の背景にある自然現象や科学的な視点に深く共感し、洞察しながら楽しんでくれる方もいれば、純粋に視覚や感覚でその美しさやインパクトを楽しんでくれた感想もあって、実に多様な受け止め方があることを実感しています。年齢層や関心の幅を問わず、さまざまな楽しみ方ができる、懐の深い体験になったと感じています。

一方で、自由に動き回る体験の中で、体験をする人の興味の移ろいや動線の偏りを完全には予測しきれず、狙い通りにならない事への反省もありました。

それについては、開幕してからの幾度かの改良や、アテンダントの方々の細やかな対応も相まって、柔軟に整えることができたのではないかと思います。あらためて、パビリオンというものは設計通りに運ぶだけではなく、日々の運営方法やスタッフの工夫、現場の対応力によって成熟していく「生きた体験」であると実感しました。現場メンバーの力が、この体験の質を大きく支えていることを強く感じています。

ここを読んでいるみなさんに、ひとこと。

約3年にわたり続いたこのプロジェクトでは、無数のアイデアや知見が、あるときは流れ、揺らぎ、形を変えながら、少しずつ空間や演出の輪郭を形づくっていきました。そのプロセスはまるで、ひとつの生命体が少しずつ成長していくかのようで、私にとってはこの上なく贅沢な学びの時間でした。体験設計の中で「人がどんな気持ちでそこにいるか」この視点を忘れずに、また何か空間演出に携わる事ができたら、と思っています。

住友館の一貫したストーリーテリングと、全員でつくりあげてきた緻密な体験設計、美しい造形と空間演出、圧倒的な没入感とパフォーマンス…ここまで熱量が込められたパビリオンはなかなかないかもしれません。ぜひ多くの方に体験していただきたいと願っています。そして少しでも心を動かすことができたら嬉しいです。