
住友館クリエイターズボイス Vol.12 大田俊吾(MONTAGE)
こんにちは、住友館です。
この連載「住友館クリエイターズボイス」では、展示や建築、演出に関わったクリエイティブスタッフたちの“声”を、少しずつ紹介していきます。
万博やパビリオンにかける想い、乗り越えた苦難、ゆずれないこだわりなど、たくさんの物語が詰まっています。
今回の語り手は、森の中の様々な体験やパフォーミングシアターなどUNKNOWN FORESTの総合演出チームのプロデューサー大田俊吾さん(モンタージュ)です。
<プロフィール>
東京理科大学理工学部建築学科を卒業後、グラフィックデザイナーを経て2016年より映像制作会社、株式会社モンタージュ入社。建築的な視点から、映像ソフトから映像を取り巻く環境、体験設計まで含めた空間プロデュースを行う。https://montage.co.jp/members/ota/
住友館に関わることになったキッカケは?
ドバイ万博日本館の作業を終えてすぐ、総合プロデューサーの内藤さんから声をかけていただきました。内藤さんとはドバイ万博日本館で初めてご一緒して、次は住友館。立て続けに大きなプロジェクトの話をいただいて嬉しかったです。
住友館のプロジェクトでは、コンセプトやストーリー構築から入る事ができて、これまでの中で最高に面白いものをつくれる、という確信のようなものがありました。
誰もやったことのないことを実現する挑戦。
住友館が目指したのは、映像、音響、照明、ミスト、ランタンを組み合わせたこれまでにないインタラクティブな体験。企画当初から、現場に入った後に試行錯誤することが多くなるだろうと予想はしていました。
その中で、一番苦労したのは、体験の中核を担うランタンの調整作業でした。

おそらく誰もやったことのないことを実現しようとしていたので、現場に入っても「仮説をたてては検証し、問題が起きれば策を練って検証してみる」の繰り返し。成功と失敗のパターンをひとつずつ確認していって、実証を積み上げていく。開幕まで、朝から晩まで毎日、時間が許す限り検証を繰り返しました。
ランタン開発担当のDNPさんをはじめ、住友館に関わる各社が会社や職種の垣根を超えて、チームとしてみんなでアイデアを出し合って、検証と改善を繰り返す。UNKNOWN FORESTは、まさにチーム全員がひとつになってつくり上げた体験です。
パフォーミングシアターは、私の集大成。

見どころを一つ挙げるとしたらパフォーミングシアターです。映像、音響、照明と霧を組み合わせた演出。お声がけさせてもらったコレオグラファー小㞍健太さん、衣装デザイン廣川玉枝さんとの共創作業。モンタージュチームで牽引した舞台演出は、私にとって、これまでの経験を生かした集大成とも言える作品です。

出演するダンサーによって異なる「風」の表現。複層になった映像は座る位置によって印象が変わります。観る回によって違いや新しい発見があるのも、このパフォーミングシアターの魅力の一つかなと思います。
積み重ねた挑戦こそ、チームの意思であり住友館のメッセージ
住友館を通して改めて実感したのは「体験設計」を大切にすることです。
UNKNOWN FORESTは数多くのコンテンツの集合体です。さらに、そのひとつひとつにも、テクノロジーやクリエイティビティが反映されています。ただ、ひとつひとつが素晴らしいコンテンツだとしても、体験する環境が整っていないと、せっかくのコンテンツの面白みが半減してしまうことがあります。パフォーミングシアターのような手間暇かけてつくりあげた演出も、来場者が体験する準備、マインドセットができないまま観覧してしまうと、温度差が顕在化して興ざめとなりかねません。

どういう人が、どうやって、どんな気持ちで体験し、終わった後に何を感じるか。体験の始まりから終わりまで、全てを一つの流れとして設計しなければ、本当に人の心に残る体験につくりあげるのは難しい、と思っています。

だからこそ、住友館で過ごす時間の中で「心に残る何か」を持ち帰っていただきたいという想いで制作を進めました。住友館からのメッセージが届いたか、未来につながる気づきやきっかけになったかどうかは、少し時間が経ってから初めてわかることなのかもしれません。
ただ、住友 EXPO2025推進委員会 事務局の方々をはじめ、建築チーム、演出チーム、運営チーム、広報コミュニケーションチーム――全員が同じ方向を向いてつくり上げたからこそ、筋の通った強いストーリーとメッセージが伝わるパビリオンになったと自信を持っています。

たくさんの人が関わる大きなプロジェクトほど「全員が同じ方向を向いている」という事が大切です。そういった意味では、チームマネジメントを実現した総合プロデュースチームの功績はとても大きいとも思っています。
住友館での体験が未来につながることを願いながら、積み重ねてきた挑戦こそ、このプロジェクトに関わった全員の意志であり、住友館が伝えたかったメッセージそのものだと信じています。