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住友館クリエイターズボイス Vol.7 乃村工藝社

住友館クリエイターズボイス Vol.7 乃村工藝社

こんにちは、住友館です。
この連載「住友館クリエイターズボイス」では、展示や建築、演出に関わったクリエイティブスタッフたちの“声”を、少しずつ紹介していきます。

万博やパビリオンにかける想い、乗り越えた苦難、ゆずれないこだわりなど、たくさんの物語が詰まっています。

今回は、住友館の空間体験をつくりあげた乃村工藝社 デザイナーの、田村啓宇さん、川﨑英治さん、町田康さん、片平有香さんにお話を伺いました。

<プロフィール>
乃村⼯藝社は、商業施設、ホテル、企業PR施設、ワークプレイス、博物館、エンターテインメント施設などの企画・デザイン、施⼯から運営管理までを⼿掛ける空間の総合プロデュース企業です。1892年(明治25年)から培ってきた総合⼒を活かし、⼈びとに「歓びと感動」をお届けしています。[YO1] 国内の博覧会においても1970年の大阪万博を皮切りに多種多様なパビリオンのデザインや制作に関わっており、今回の大阪・関西万博では先人たちが残した叡智を継承しながら、最新のテクノロジーと空間造形の匠を組み合わせることで唯一無二の空間体験を創造しました。
https://www.nomurakougei.co.jp/

住友館に関わることになったキッカケは?

田村:
2021年の秋、ドバイ万博の開幕前に内藤総合プロデューサーからお声がけいただき住友館の空間デザインを担当させていただくことになりました。それまでモーターショーをはじめとする大型のイベントや最新のボールパークなど複合的な知見を要する案件を手掛けてきましが、実は万博のお仕事は初めてだったので…期待に応える自信はありながらも、これまで自分が培ってきた経験が試されるような気持ちでした。


川﨑:
運命ですかね、笑。僕の父親は住友グループに勤めていましたし、弟は現在も勤めています。2005年 愛・地球博の当時はまだ経験も浅く、担当範囲は自分の得意な分野のみ。今回の住友館では、すべてをつくらなくてはならないという「覚悟」が求められ、3年以上にわたり企画とデザインに向き合い続ける「途方もない時間」が求められるプロジェクト。当初は困惑しましたが、しだいに2005年 愛・地球博から20年分のデザイン経験を試せる場として楽しみにする気持ちが湧いてきました。

森をつくる、というこれまでにない挑戦。

片平:
入社早々、この大きなプロジェクトに加わることになり、「住友館は森をつくる。それだけ決まっている」と説明を受けました。その時点では、森のプランはまっさらな状態で、何をどう作りあげていくか見当がつかず、ワクワクと同時に不安を覚えました。
その説明後すぐに参加した企画定例会議は、特に印象深い時間で、様々な専門性を持った方々が集まり、どうしたらよりよい体験を提供できるかと毎週議論を重ねました。
時には仮組みで検証を行いました。そうした妥協のないプロセスの中で空間が少しずつ形づくられていく様子はとても刺激的でした。制作段階では、来場者の動きを想像しながら、森の中のそれぞれの演出をどこに配置して、イベント発生のタイミングをどうするか試行錯誤しながら設計していました。けれど、住友館の“森づくり”にずっと携わってきたメンバーの感覚は、どうしても「こう動いてほしい」という理想の動きを前提にしてしまいがちでした。

田村:
住友館に関わる当初から森をテーマとすることは決まっていたので、国内の様々な森に出向き、植生やその成り立ちについて学びました。
これまでの空間づくりの手法でイメージパースを描くと、どうしても公園のような平坦な森になってしまう。そこで平面図や展開図からパースを起こす手法を捨てて、映画のシーンを再現するような気持ちで先に絵を描いてから図面を描くことにしました。この手法を習得したことは今後の、博覧会やエンターテインメント空間のデザインにとってとても大きな学びになりました。

町田:
森を作るにあたっては、公園のような平坦な森ではなく起伏に富んだ「本物の森のような空間」を目指しました。そうはいっても建築物の中につくる森なので、建築に関わる法律や協会のガイドラインで定めたルールなどに沿う必要がありました。
体験性を損なわず、すべての来場者の方に楽しんでもらえる方法を模索しました。ルールに沿った道を設けることはもちろん、それ以外にも「勾配のきつい道」や「階段を超えていかないと見えない場所」など複数のルートを意図的に設けました。
また一人ではいけないけれど、家族や友人たちと協力することでたどり着くことが出来ると場所、ということも意識しました。

川﨑:
限られた条件の中での「リアリティある森づくり」の追求が課題だったと思います。
一般的な体験型の空間づくりでは自分の進む方向が明快で、人を誘導していく仕掛けを組み込みますが、住友館の森は「行く先が見えない、自分がどこにいるかわからない、探し物も見つからない」と、まったく逆のつくり方をしています。いま思うと、「森で迷子になってもらうことを目指す」が大きな解決方針だったと思います。
あと、近年、当たり前のように見かける映像演出だけではなく、クオリティの高い機械仕掛けの動物の存在も住友館の森のリアリティや魅力をぐっと引き上げることのできたひとつの要素だったなと考えています。

自分たちのこだわりが届く喜び。

田村:
開幕直前まで自身が関わる住友館のみに向き合い奮闘していて正直、他館の様子は全く知らなかったのでここまでの人気館になったことに驚きました。特に外国の方や子供たちの反応を見ると我々が伝えたかったメッセージがちゃんと届いていて本当に嬉しく思います。

町田:
リアルな声やSNS上での反響の大きさに驚いています。特に小さな子供たちが喜んでいる姿を見るととても微笑ましく思います。なかなか上手くいかないことや困難も多かったですが皆さんの笑顔を見るとこのプロジェクトに関われて本当に良かったと思います。

川﨑:
住友館の出口で「すっごい良かった~」と声をかけられことも多々あり本当に良いものができたと実感しています。
一方、これだけの人気にも関わらず、森の動物やフォトポイントを増やし、そして新たなイベント企画をうちだす「閉幕まで進化させ続けるチームの執念」に驚いています。
万博パビリオンは生き物のように変化させるもの、そして万博で人気パビリオンをつくるとはこういうことなのだと実感しました。

片平:
住友館が大変盛況だという声を、さまざまな方から耳にしています。中でも「住友館は細部まで楽しませようというこだわりを感じる!」というレビューが印象的でした。実際に、あれもこれも奮闘して作り上げたことが、来場者の方々にしっかり伝わっているのだと嬉しく感じました。

彷徨って、五感で感じて、答え合わせも。

田村:
UNKNOWN FORESTは様々な方に安全に冒険を楽しんでいただける森です。五感を研ぎ澄ませて没入いただくための多彩な演出装置が仕込まれているという意味では、自然の森とは違った「不自然な空間」といえるかもしれません。けれど、誰もが体験や発見に夢中になり、いつしか本当の森の中を彷徨っているような感覚に陥るはずです。そうした経験が皆さんの想像力を掻き立て、やがてどこかの森に入った時に、これまで気づかなかった生き物たちの物語に想いを馳せていただけたら嬉しいです。

川﨑:
土の回廊にいる動物たちを実現するまでには苦労も多かったんですが、現地では「キツネ見られたからもう満足!」という声も何度も耳にして、苦労の甲斐があったなと思っています。住友館を訪れた子どもたちがここで動物や昆虫を見つけたことにより本物の森へ行きたいと思ってくれることを期待しています。
あと、「住友館の森でキツネ飼っているらしい」なんて都市伝説のような噂が広まってくれることを密かに期待しています(笑)

町田:
パフォーミングシアターは、前後の映像とステージ造形で構成された複層構造になっており、至近距離から立体的な演出を楽しむことが出来ます。座席の位置によって演出の見え方感じ方が大きく異なるのでこれから訪れる方は座る場所も意識して楽しんでもらえるとよいのかなと思っています。

片平:
UNKNOWN FORESTには動物や昆虫、草花などたくさんのいのちが隠れています。すべての体験を終えた先のエリアには、どこに、どんないのちが隠れていたのかが分かる展示を用意しているので、訪れた方にはぜひ答えあわせを楽しんでいただきたいです。もう一度住友館を訪れたいと感じてもらえるきっかけの一つになればと願っています。

つくり手も学び、次なる未来へと一歩を踏み出す。

田村:
あらためて「リアルな場」が持つ力や価値を痛感しました。コロナ禍やSNSの浸透によりリアルなコミュニケーションの役目が傍に追いやられる危機感がありましたが、こうして毎日沢山の来館者の方々が偶発的に集い、同じ体験から様々な感想を抱いて意見を交わしあう…そんなシーンを目の当たりにすると今の時代だからこそ「リアルな場づくり」の重要性を思い知らされました。
それと同時に「別子銅山」から着想し、「住友の森の木々」でつくられた住友館の建築のように、ストーリー性を持った建て方であったり、訪れた人々の思考や行動に良い影響を与えられる展示空間でなければ環境に負荷を与えるだけのもモノになってしまう…そんなメッセージを森から貰いました。


川﨑:
ありがとうございます!この森でたくさん学ばせていただきました。建築や展示空間にはこれまでも一通り携わってきましたが今回、人がどのように動くか、それを支える運営スタッフや仕組みはどうあるべきかなど「コト」をつくり上げていくための緻密なプロセスを目の当たりにできたことは得難い経験でした。さらには、それを細部まで研ぎ澄ましていく執念はこの後のプロジェクト、そしてその来場者の感動をつくるために活かしたいと思います。
森の次は海ですかね…また同じチームでプロジェクトができれば最高ですが、そこは運命に任せます。

町田:
長い期間、議論を重ねて計画を進めてきましたが、人が入って演出が動き出したときに、はじめてこの森の全体像が見えた気がしました。来場者の方の反応を直接伺えたのは何物にも代えがたい経験になりました。これからも受け手側が何を感じ、こちら側として何を伝えることが出来るかを考えていきたいです。

片平:
このプロジェクトでは本当に多くのことを学ばせていただきました。未知のものをつくり上げるプロセス、妥協のない姿勢は、今後余すことなく活かしていけると感じています。社内外の経験豊富な方々との共創はもちろん、同世代の方々とご一緒できたことも刺激的でした。せっかくのご縁を大切にし、またご一緒できる機会を楽しみにしています。