
住友館クリエイターズボイス Vol.6 田中倫(電通ライブ)
こんにちは、住友館です。
この連載「住友館クリエイターズボイス」では、展示や建築、演出に関わったクリエイティブスタッフたちの“声”を、少しずつ紹介していきます。
万博やパビリオンにかける想い、乗り越えた苦難、ゆずれないこだわりなど、たくさんの物語が詰まっています。
今回は、住友館の展示企画パートを統率し、愛を持ってUNKNOWN FORESTをつくりあげた田中倫さん(電通ライブ)です。
<プロフィール>
イベントプロデューサー。キャラクター関連コンテンツのファンイベントや、全国巡回パレード、コンサートなど演出性の高いイベントのプロデュースを多く手掛ける。まだ見ぬエンターテイメント体験を作るために奔走中。
https://www.dentsulive.co.jp/
住友館に関わることになったキッカケは?
私がこのプロジェクトに参加したのは2021年の秋頃だったと記憶しています。
当時は万博に関する知識が全くなく、「パビリオンとは何か」から始めなければいけないような状態でした。しかし、2021年に開催されていたドバイ万博を視察し、日本館をはじめとする様々な国のパビリオンを目の当たりにして、万博に対する私の印象は一変しました。国境を越えて多様な人々が集まり交流する場としての意義、そして万博でしか味わえないエンターテイメント体験があることに気づき、大きな期待感を抱きました。
試行錯誤はオープンしてからもつづく。
森の中を自由動線で探検いただく体験は、住友館の見どころのひとつ。ですが、この自由な人の動きが予測困難で、苦労しました。ルートが固定されていないので、来場者がどう動くかによって体験の質が大きく変わってしまうんですよね。

制作段階では、来場者の動きを想像しながら、森の中のそれぞれの演出をどこに配置して、イベント発生のタイミングをどうするか試行錯誤しながら設計していました。けれど、住友館の“森づくり”にずっと携わってきたメンバーの感覚は、どうしても「こう動いてほしい」という理想の動きを前提にしてしまいがちでした。

そこで、オープン直前には、演出内容を知らない状態のスタッフに来場者役として体験してもらうテストを数度に渡って実施しました。わかったのは、初見の体験者の動きには私たちの想定外のものが多くあるということ。軽い衝撃を受けました。その結果に基づいて、全体の演出内容の変更や、イベント発生タイミングの大幅な変更と調整していったんです。
オープンした後も、約1ヶ月間は試行錯誤の日々でした。来場者の方の動きを観察したり、運営スタッフからの意見などをもらいながら、「この演出はもう少し短くすべきだ」「ここはもっと早く始めるべきだ」といった改善を重ね、調整を行いました。
住友館のユニークな体験設計を今後発展させたい。
住友館「UNKNOWN FOREST」は、壮大な物語を、二部構成で体験いただけるつくりになっています。
ランタンを手に森を自由に冒険し、森に散りばめられた「いのちの物語」を集める体験から始まり、次の「パフォーミングシアター」で、集められた物語が一つになり、来場者全体で共有される壮大な物語へと昇華される流れです。


ウォークスルー型アトラクションとシアター体験が連動し、一つの物語を完成させるというユニークな構成が住友館の特徴です。来場者それぞれが独自の物語を体験するという点では、ニューヨークで体験型演劇の大ブームを起こした「スリープ・ノー・モア」のようなイマーシブシアターと共通する部分があります。しかし、住友館では、来場者が自らの意思で物語の伏線を集め、それが最終的に全体の物語へと繋がる点で、これまでにない新しいエンターテイメントを提供できていると考えています。

「散らばった伏線を各自で集め、最終的に伏線が回収される物語を全員で共有する」という住友館の体験フォーマットは、他のエンターテイメントにも応用できる可能性を秘めていると感じています。この体験構造を引き継ぎ、映画や演劇といった既存のエンターテイメントの発展形を創造できれば面白いと考えています。
ゼロから設計した空間で、唯一無二の贅沢な舞台体験。
UNKNOWN FORESTの造作の精巧さや演出体験にもぜひご注目いただきたいのですが、個人的には、パフォーミングシアターの贅沢な体験をぜひ多くの方に体感していただきたいと強く願っています。
ダンス、映像、音響、霧などの多様な要素が融合し、没入感のあるひとつの舞台作品になっているのがパフォーミングシアターの特徴です。透過スクリーンを手前、LEDスクリーンを奥に配置し、その間にダンサーのパフォーマンスエリアを設ける複層構造により、深い没入感を体験いただく事が可能になっています。

透過映像を用いた演出は、近年の音楽ライブなどでも見られる手法ですが、当シアターではサラウンド音響と霧の演出を加え、ストーリー性のある唯一無二の舞台体験を提供しています。
ゼロから設計された空間ならではの、既存のシアターでは実現できない表現に挑戦しています。映画や舞台、ダンス公演に関心のある方々はもちろん、演出や制作に携わる方々にもぜひご覧いただきたいです。
6ヶ月間の超ロングラン公演。風を表現するダンサーたちに注目を。

これからご覧になられる方は、UNKNOWN FORESTの物語において、「いのちに変革をもたらす存在」という重要なモチーフである“風”を表現するダンサーたちのパフォーマンスに、ぜひご注目ください。舞踏家・小㞍健太さんの振付、衣装デザイナー・廣川玉枝さんの衣装をまとった個性豊かなダンサーたちが、それぞれ異なる表情を持つ”4つの風”を繊細かつ力強く表現しています。
この公演は6ヶ月間の超ロングランで、1日に約30回という非常に挑戦的なスケジュールですが、生身の人間によるパフォーマンスを取り入れた、このシアターでしか体験できない“風”の表現が見どころになっています。ぜひ体感していただきたいです。