
住友館クリエイターズボイス Vol.4 株式会社アンズ グラフィックチーム
こんにちは、住友館です。
この連載「住友館クリエイターズボイス」では、展示や建築、演出に関わったクリエイティブスタッフたちの“声”を、少しずつ紹介していきます。
万博やパビリオンにかける想い、乗り越えた苦難、ゆずれないこだわりなど、たくさんの物語が詰まっています。
今回の語り手は、アンズのグラフィックチームです。みなさんが目にする機会が多い住友館シンボルマークやチラシ、UNKNOWN FORESTの壁画や、ミライのタネの箱、UNKNOWN FOREST SHOPのグッズデザインなどを手掛けた、住友館には欠かせないチームの声をお届けします。
<プロフィール>
いい関係をデザインする。価値を、体験を、想いを、メッセージを。届ける人と、受け取る人。その間に「いい関係」があってこそ、さまざまな感謝や感動が生まれ信頼へとつながっていく。私たちアンズ(UNZU DESIGN BASE)がデザインしたいのは、そんないい関係、いいコミュニケーションです。https://unzu.co.jp/
住友館に関わることになったキッカケは?
2021年に住友館のプロジェクトに参加することになりました。足掛け4年という長期にわたる大きなプロジェクトです。
「ゼロからパビリオンをつくり上げていく」と聞いたとき、緊張もありましたが、それ以上にワクワクした気持ちが大きく、どんな挑戦になるのかという期待感を強く持ったのを記憶しています。「森」「風」「UNKNOWN FOREST(冒険への一歩を踏み出す勇気)」という住友館のコンセプトの核が生まれる瞬間に立ち会えたことは、特別な経験でした。そこから始まったパビリオンづくりは想像を超えるスケールで苦闘の連続でしたが、それ以上に多くを得ることができ、私たちにとっても大きな歩みとなりました。
シンボルマークに込めた、願い。
グラフィックデザインは、言葉では伝えきれない想いや価値を、形や色で視覚化する仕事です。私たちのチームが最初に取り組んだのは、住友館のシンボルマークでした。制作にあたっては、住友グループの歴史や事業精神を学ぶことから始めました。別子の森の「緑」、困難な時代にも「未来を見据えて行動」した先人たちの姿、そして一つの事業(タネ)から枝葉が広がるように成長していった企業群の歩み──そうした背景を手がかりに、デザインに込める意味を丁寧に探っていきました。
こうして生まれたのが、「森」×「人の可能性」をテーマにしたシンボルマークです。

グループ各社が力強く集結し一粒のタネに。住友館に訪れた方や、住友館に関わった一人ひとりの中でその“タネが芽吹く”瞬間をイメージし、成長のプロセスを左右非対称なフォルムで表現しています。さらに、そのフォルムには発見や驚きを象徴する「!」マークの要素も重ねています。
このマークには、住友グループの歴史や精神を伝えると同時に、訪れる一人ひとりの中に眠る可能性が芽吹き、未来へと伸びていくことへの願いが込められています。この世界観は、「森のがっこう」や植林体験、「ミライのタネ」ともつながり、実際に子どもたちが楽しそうに学ぶ姿を見られたことは、何よりの喜びでした。
住友館を形づくった様は、まるで一つのオーケストラ。
多くの来館された方が笑顔で館を後にする姿や住友館に寄せられる感想を通じて、万博という場の力、そして住友館の魅力を改めて実感しています。
万博のパビリオンは、単なる展示空間ではなく、多くの人の力でつくり上げられる「ひとつの世界」だということを、今回強く実感しました。住友EXPO2025推進委員会、住友グループ各社をはじめ、プロデューサー・建築・展示・演出・広報・運営、当日の現場スタッフまで、あらゆる分野の人が関わっています。

「UNKNOWN FOREST」では、クリエイターの手で次々と形になり、ダンサーのパフォーマンスやアテンダントや運営・進行チームの方々の献身によって、パビリオンに命が吹き込まれていく―その様子を間近で見ることができました。
また、テクニカル、植林チーム、警備や清掃など、日々の運営を支える多くの方々の存在の大きさにも、改めて気づかされました。

それだけでなく住友館が形になっていく様は、まるで一つのオーケストラのようでした。建築、展示、演出、運営…さまざまな分野のプロたちが集まり、最初は手探りで音を合わせていくところからスタート。あるパートが静かに音を鳴らし、また別のパートがその響きに耳を澄ます──そんな音合わせの時間が、少しずつチームとしての「調和」へと変わっていきました。そして、いよいよステージの幕が上がり、指揮者のタクトが振り下ろされた瞬間、ひとつの壮大な楽曲が動き出します。住友館というパビリオンの中で、たくさんの“音”が重なり合い、響き合い、最後にその音楽を完成させてくれるのは、来館者のみなさんの体験と感動だったのです。

そんなオーケストラの一員として、私たちも確かにそこにいて、自分たちの音を奏でていました。あの高揚感、達成感は、これから先の私たちの原動力になっていくと感じています。
つくる過程も、心から楽しんできた。
「いのち輝く未来社会のデザイン」を掲げる万博において、「つくり手たちのウェルビーイング」も大切にしたい──そんな想いをずっと抱いていました。来館者に楽しんでいただく場であるはずの万博も、そのスケールの大きさや責任の重さゆえに、つくり手が疲弊してしまうこともあります。だからこそ、成果はもちろん、「つくる過程」そのものにも意味や楽しさを感じられるような、そんなチームのあり方をささやかに思い描いていました。
一生に一度あるかないかの日本での開催。この特別な機会を、私たち自身も心から楽しもう──そうチームで話し合い、日々を重ねてきました。
もちろん、すべてが順調だったわけではありません。それでも、住友館プロジェクトでは、その理想に少し近づけたという手ごたえがあります。お互いを信頼しあい、時には助けてもらい、専門性を活かし合って、目標を共有しながら前に進んだ時間は、私たちにとってかけがえのないものでした。この学びを、これからの仕事や人との関わりの中でも、大切にしていきたいと思っています。
探してみて、住友館チームのこだわりの軌跡。
外観や、予約不要で自由に見られる「FOREST GALLERY」エリアには、さまざまなデザインが点在しています。たとえば、建築のてっぺんに掲げられた「住友館」の文字、エントランスの「SUMITOMO PAVILION」、幅7メートルの大きな《UNKNOWN FOREST》壁画、「森のがっこう」のかわいらしい壁面、大きく切り抜かれた非対称のシンボルマーク、「ミライのタネ」の箱と、その上に乗った芽たち、「森へ行こう」の親しみやすいイラストなどなど。私たちのビジュアルを展示チームが魅力的な空間として仕上げてくれました。

そのほかにも、アプローチで登場する森のやくそくを伝えるどうぶつアイコン、運営チームとともに制作した植林体験イベントの未来の森づくり参加証明書、ショップに並ぶ「UNKNOWN FOREST」のコンセプトストーリーブック、コンフォーマTシャツなど、さまざまな場面でデザインが活かされています。どの一つを取っても、私たちグラフィックチームだけでなく、プロジェクト全員のこだわりと想いが込められています。
そして、それらのグラフィックが、万博の思い出のひとつとして皆さんの記憶に残ってくれたなら──それ以上に嬉しいことはありません。